第三章
身の毛もよだつような静寂。時が止まったかのような感覚──誰もがその光景に目を奪われ、言葉を失っていた。破壊の神の暴走が起こした不測の事態なのかと兄の創造神へ困惑の目を向けたが彼は至って冷静に静観している。
「、!」
何にも例え難い耳に障る音が響く。神経なのか血管なのか兎角細い管を連れて引き摺り出したのは赤い塊。喉奥から込み上げてくるのは感情なのか吐き気なのか──躊躇う様子もなく彼が左腕を大きく引いて繋ぐ管を引きちぎれば。
幼子は。
操り糸を失った人形のように。
「タブー!」
ルーティは思わず声を上げて駆け寄った。急ぎその体を抱き起こす側でクレイジーはただただ冷め切った目で見下ろしている。
「……なんで」
タブーはぴくりとも動かない。
「なにもそこまでッ!」
「じゃあ何が出来たわけ?」
冷たく言い放つ。
「こいつと遭遇する度に防戦一方、或いは逃げるしか選択肢がなかったくせに」
「……それは」
薄く目を開いたまま。呼吸も感じられない。
「、だからって」
こんな形で。
「順を追って説明するべきだったな」
それまで黙っていたマスターが小さく息をついてようやく口を開く。
「まず。そいつは死んでいない」