第三章
スピカ……気付いてたんだ。気付いた上でそれでも尚側に居たいというダークウルフの思いを汲んで今まで黙っていたのだろう。
「……お前たちの体は日の当たる場所で長時間活動できるようには作られていない」
マスターは短く息をつく。
「これ以上は皮膚が焼け爛れるぞ」
その恐ろしい忠告にダークウルフは眉を寄せて自身の腕をきゅっと掴んだ。それまでただにこにこと見守るばかりだったダークファルコが、ダークウルフの肩をぽんと叩く。
「行きましょうか」
それでも尚ダークウルフは黙っていた。
「ウルフ」
忠犬のような男だ。叶うなら最後の最後までお供したかったことだろう──それがただ普通の人間じゃないというだけで叶わなくなる。偽物として生み出され本物以上だと謳いながらそれでも地上を燦々と照らす太陽の光に当てられただけで損傷を起こす不完全な身体。
ダークウルフが表情に影を差して立ち尽くしている間にダークファルコは虚空に向かって銃を撃ち込んだ。不自然に浮かぶ銃弾一つ分の穴に無理矢理手を掛けて力任せに左右に引けばその先紫色の世界を覗かせる。
「ダークウルフ」
ルーティは胸の前で手を握りながら。
「──離れていても"パートナー"だよ」
ダークウルフははっと目を開いた。
顔を上げたその先でスピカが小さく頷く。
「リーダー」
ダークファルコに続いて紫色の世界に足を踏み入れながら最後まで眉を寄せた表情で。
「……どうか。ご無事で」