第三章



眦は鋭くつり上がり双眸は暗闇に潜む猛獣を思わせるベガルタゴールド。目元には隈が落ちており、それが寝不足によるものなのか日々の──彼の場合は研究に没頭するがあまりケアを怠った結果癒着してしまったものなのか。彼の性質を恐れて寄り付かない現場では知る術はないのだろう。──腰まで流れる藤色の髪は高い位置でポニーテールにして結っている。前述した通り研究や実験の際邪魔になってしまうからだろう。

背はすらりと高く細身であるため余計に高身長であるように見て取れる。服装は白衣を纏って──忘れてはいけない。彼の半身は機械化しているのである。

銀河系社会を脅かす反連邦機密犯罪テロ組織スペースパイレーツ軍の最高司令官である彼は、現在X部隊に所属しているサムスの宿敵。一体どんな激しい戦いを繰り広げたのか知らないが最も彼の半身が機械化しているのはそれだけが理由ではない。

この世界を脅かす亜空軍による新世界創造計画。それこそが彼の半身を機械化にするまで追い詰めた事件。そして──その主将たるマスターとクレイジーを心の底から深く憎悪する形となったきっかけ。

「た、直ちに!」

男が酷く怯えた様子で扉目掛けて駆けていくと、それまで床に倒れてしまっていた男もふらつきながら立ち上がり後を追いかけた。彼、リドリーは閉じた扉に舌打ちを飛ばすと扉には一度背を向けたが視線を受けて振り返る。視線を送るのはタブーだった。

「デュオンには神力を積んである。陳腐な計画みたく簡単に壊れない。壊れてもらっちゃ困るのさ」

息をついて白衣を翻す。

「古代兵器の完成はもうすぐだ! 邪魔はさせない。足止めの中で奴らが命を落とせば好都合。本音は首を落とす瞬間を全世界に発信して見せしめにしてやりたかったが──まあいいだろう。他の何者にも知られず世界の端でひっそりと朽ちるのも乙なもの」

くくっと喉奥で嗤う。

「この俺を亜空軍から追放したこと。地獄の底で後悔するがいい。──アーッハッハッハッハ!」
 
 
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