第三章
僅かに胸騒ぎを覚えて。
「そ、それってもう手遅れってことなんじゃ」
「慌てるなよ。現にまだ追われてるだろ」
そっかとルーティは小さく息を吐いた。
「わざと捕まった方が早そうな気もするがな」
「す、スピカ」
「うっかり死んでも構わないならね」
安心したのも束の間毒突く。言葉の棘など構うはずもなくクレイジーがさらりと述べると当の本人スピカは舌を打って眉を顰めたが。
「兵器として表に出してこないということは目覚めてはいるが不完全であると見て先ず間違いないだろう。覚醒から日が経っていないのは好都合と見えるが不完全でありながら複製を作り出せるのであれば早急に手を打たなければ取り返しがつかなくなる可能性がある。あの時──不意を突いてタブーを洗脳した光も古代兵器によるものと考えていいだろう」
ここまで推測であるに過ぎないが納得がいく。最悪の状況下でまさか神力も失われているのに怒りに任せて考えなしの真っ向勝負──なんていくらなんでも思考が闘牛のそれではないかと顔が引き攣る勢いだったが流石は亜空軍の主将といったところか。偉そうに批評ができる立場ではないが確かにこれでは彼らの思考に頷いて従う他ない。下剋上待ったなしといった双子にしてみれば最悪の状況でありながらスピカ含むダークシャドウが逆らわないわけである。
「時間を掛ければ掛けるほど古代兵器が未知の攻撃を仕掛けてくる可能性があるから僕たちも考えて行動しなければならないってことだね」
クレイジーは鼻を鳴らす。
「やっと通じてくれたみたいで嬉しいよ」
「説明不足なだけじゃんか」
「どうせ敵わないのに口答えすんの?」
きっと睨みを利かされて縮こまる。
「……ずるくない?」
「いつものことだよ」
「聞こえてんぞ、鼠ども!」
うーん。パワハラ上司を垣間見た気がする。