最終章
……風が吹いている。涼しくて心地のいい風だった。
紙袋を手に墓石へと歩みを進めたリムは小さく目を丸くした。幾つもの花束や供物が添えられていたのである。相変わらず想われているな、と思わず笑みを浮かべてしまいながら墓石の前に膝をつく。紙袋から花束を取り出すと静かに添えて。
「ラディスってこしあん派だったかしら、つぶあん派だったかしら」
供物の饅頭を取り出しながらふと疑問を口にしたが、ユウからは「知るか」と素っ気ない声が返ってきた。残念ながら自分もよく覚えていない。
リムは瞼を下ろし、手を合わせた。
ねえ、ラディス。
あれから十年も経ったのよ。信じられる? 世界は驚くほど平和で、面白いくらい犯罪や事故が起こらなくて面白くないくらい変わらない日々が続いてる。
これが例え貴方のお陰でもそうでなくても。
やっぱり、私たちは――
「あ」
不意に聞こえた間の抜けた声に、リムは現実に引き戻されるようにして瞼を開くと立ち上がって振り返った。
「あんたらもしかして、リムとユウ?」
がたいのいい茶髪の青年が目を丸くしている。
「もしかして、じゃなくてそうですよ」
緑の服の青年は笑って。
「お久しぶりです。覚えてますか?」
――忘れるはずがなかった。
「ドンキー! リンク!」