最終章
一年。長いようで短く、そして終わりの瞬間は呆気ない――そんな時間。
けれどきっと、もう二度と忘れることはないだろう。
ラディス。覚えていてくれ。
例え離れていても俺たちの想いはお前の魂と共に在るということを。
――いつまでも。
「ただいま!」
それから十年の時を経て、場面は森林都市メヌエルにある道場屋敷。
「ちょっと待ちなさい!」
ばたばたと忙しない様子でリビングに飛び込んだかと思えばソファーに通学用鞄を置いてそのまま飛び出そうとする娘を父親が呼び止めた。
「なにー?」
「これを持っていきなさい」
ひょっこり顔を覗かせていたところ疑問符を浮かべて戻ると、父親の男は広げていた新聞を畳み椅子から立ち上がって、娘が習学中に買ってきた花束と透明用紙に包装された饅頭を一緒にまとめた紙袋を差し出した。
「知っているよ。今日はあの人の命日だろう」
男は短く息をついた。
「全く。お前はいつまで経っても落ち着かないな」
「誰かさんに性格が似たんですー」
紙袋を受け取りながら嫌みたらしくけれど、くすっと笑って。
「ありがと。行ってきます」
「行ってらっしゃい、リム」