最終章



「ここに、いたんだね」

踏んだ泥が跳ねる。音と声に振り返るとそこには。

「……マルス」

傘も差さずにびしょ濡れで。ロイがぽつりと呼ぶとマルスは目を細めた。

「風邪をひくよ」
「それはこっちのセリフ――」
「帰ろう」


その何気ないひと言に。

何故か、心がざわついた。


「てめえら」

ラディスの家の扉が開いたのはその時だった。次から次へと――ロイは募る不安を胸に振り返って口を開く。

「何してたんだよ」

そんなのはただの挨拶に決まってるのに。

「司令官から直々に活動休止命令が出ていることは知ってる」

どうして焦る。

「でも……それって具体的にはいつまでだよ。いつになったら、また」
「強い催眠術をルーティにかけた」


音が、止んだ。


「具体的には『DX部隊』に関する情報を全て忘れさせ、ラディスに関する記憶を本来とは異なるものに改変した」
「なに言ってるんだよ……何でそんなこと」
「上層部からも正式に許可が下りている」

あくまで静かに。けれど残酷に。

「本日付けで」


紡ぐ。


「――『DX部隊』は解散だ」
 
 
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