最終章



ラディスの意志を叶える為。フォックスは彼の両脚を銃弾で撃ち抜いた。

あの時の悲痛な叫び声が今もまだ耳に残っている。

「……さあな」

クレシスは葬儀に参列しなかった。あんなにラディスのことを想い、親しみ、尊重していたというのに。

いや。だからこそ顔を合わせるつもりもないのだろう。あの日――あんな真似さえしなければラディスは止められていた。あの選択が今日を招いた。

それがいくら彼の意志を尊重した結果だったとして。


こんなはずじゃなかったのに。


「電話も通じねえ。誰に聞いてもさっぱりだ」

フォックスは目を細める。

「……そうか」


今の時代。傷なんてものは魔法を当てれば容易く癒える。

呪文を唱えれば毒を取り除く。


でも。

傷とは本来、長い時間をかけて癒していくものだと思う。


それは心の傷も同じ。


「……本当に行かないの?」

両脚の傷は治癒魔法によって癒えていた。

けれどこの日。大切な人の葬儀が行われるというこの日。クレシスは実家の窓辺に腕をかけて降り頻る雨を眺めるだけ。

「……いいんだよ」

クレシスは一切の視線も寄越さずに言った。

「あいつはもう居ないんだから」
 
 
4/37ページ
スキ