最終章
ラディスの意志を叶える為。フォックスは彼の両脚を銃弾で撃ち抜いた。
あの時の悲痛な叫び声が今もまだ耳に残っている。
「……さあな」
クレシスは葬儀に参列しなかった。あんなにラディスのことを想い、親しみ、尊重していたというのに。
いや。だからこそ顔を合わせるつもりもないのだろう。あの日――あんな真似さえしなければラディスは止められていた。あの選択が今日を招いた。
それがいくら彼の意志を尊重した結果だったとして。
こんなはずじゃなかったのに。
「電話も通じねえ。誰に聞いてもさっぱりだ」
フォックスは目を細める。
「……そうか」
今の時代。傷なんてものは魔法を当てれば容易く癒える。
呪文を唱えれば毒を取り除く。
でも。
傷とは本来、長い時間をかけて癒していくものだと思う。
それは心の傷も同じ。
「……本当に行かないの?」
両脚の傷は治癒魔法によって癒えていた。
けれどこの日。大切な人の葬儀が行われるというこの日。クレシスは実家の窓辺に腕をかけて降り頻る雨を眺めるだけ。
「……いいんだよ」
クレシスは一切の視線も寄越さずに言った。
「あいつはもう居ないんだから」