第十一章-後編-
大丈夫でないことは明白だった。
肉体的にも、精神的にも。だからそれは敢えて聞かなかった。
「あのさ」
フォックスは隣に腰を下ろしつつ訊いた。
「……どんな人なんだ?」
ラディスは少しだけ目を丸くした。
「マスターとクレイジー」
フォックスは続ける。
「俺たちには分からなかったからさ」
記憶。思い返す。
マスターとクレイジーは……双子の兄弟で。とても仲が良くて。そりゃ世間一般で見かける子供より思考や言動が歪んでいたけど、それでも。
それでも、彼らは――
「普通だった?」
はっと顔を上げたのと同時。どうして。ぽたぽたと雫がこぼれ落ちた。
……どうして。
「誰にでもあるごく当たり前の幸せを願う、普通の子供だった」
ラディスは拳を握り締める。
「ただ少しだけ……少しだけ、他の子供と違って……それだけだったんだ。本当にそれだけで、それなのに」
だって同じじゃないか。
幸せになりたいのは誰だって、同じことで。当たり前のことで。
彼らにとっては。
やっと、届くところだったのに。