第十一章-後編-



ピーチは小さく頷いて手鏡を手に、ラディスの元へ。

……鏡は少しひび割れていた。彼女が傍に膝を付いて見せた手鏡をラディスは怪訝そうに覗き込む。雲の切れ目から射し込んだ太陽の光がぱっと反射して思わず目を瞑った。それから恐る恐る開いて鏡に映し出された姿に我が目を疑う。

――そこには一人の男が映し出されていた。

瞼には薄く痣が出来て腫れ上がり、頬には切り傷。髪は千切れ、切れた口の端から血が滲む。気付いて、自分の手や腕に目を遣ると小さな火傷をいくつも確認した。ただ息をするのにも体の何処かがギシギシと悲鳴を上げている。

重い。眠たい。頭がぼうっとする――ラディスの体は、本人が思うよりもずっと前から限界を迎えていたのだ。

「まさか気付かなかったのか?」

フォックスは訊いた。

「……痛くないの?」

そうだ。こんな状態になっていたら他が気付くより先に自分が――


「“ボルテッカー”を使ったろ」


えっ? とフォックスが怪訝そうに見つめた。

「同種族の中でもごく一部の連中にしか扱えない特別な技だ」

クレシスは腕を組んで答える。

「莫大な威力を誇るがリスクも高い」


……以前に聞いた。彼らの種族は体内に固有の電気回路を持つ。

空気中から集めた電気を体内に蓄えて好きな時自在に扱い、威力を調節して放出することもできれば筋肉や神経に電気を流すことで故意に変化を与え、一時的に能力を引き上げることもできる、と。端から聞いてもぞっとする話なのに。

それを上回る威力を約束する相応の代償って――
 
 
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