第十一章-後編-



待ってくれ――叫ぶ余裕もなかった。

強風が吹き荒れて、それでもラディスは何とか踏み留まった。腕を差し出して庇いながら、眉を顰め目を凝らして、マスターとクレイジーを見遣る。

「マスター!」

返事はない。

「クレイジー!」


俺は、まだ――


「僕たちは子供じゃない」

クレイジーはぽつりと言った。

「……人間じゃない」

目を開く。


「さようなら」


――ラディスの姿が見えなくなると、クレイジーはマスターに擦り寄った。

「兄さんは」

ここからだと影が差して表情は窺えない。

「あいつのこと、好き?」


けれど寂しそうな声だった。


「……僕は嫌いだよ」

マスターは静かに揺れていた瞳を瞼を下ろし閉じ込めた。

「俺も」

そして呟く。

「……嫌いだよ」
 
 
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