第十一章-後編-
水を打ったように辺りは静まり返った。
ラディスがもう一度、マスター、と小さく繰り返したその時。
「可哀想に」
――ぞくっとした。
「こんな面倒な奴に付け回されて」
覚醒した左手がするりと兄の頬を撫でる。
「迷惑だよね。僕たちの世界に足を踏み入れようだなんて」
「……クレイジー」
赤の瞳がじろりとラディスを睨んだ。
「……迷惑なんだよ」
殺気が絡み付く。息を呑んだが何とか振り切って、
「お願いだクレイジー、マスターを解放してほしい」
割れ物を扱うかのように慎重に。
「じゃないと」
「――壊れちゃうって?」
ニヤリと笑って、声が遮った。