第十一章-後編-
何を――考えるまでもなかった。
一体何度目だったろう、気迫のこもった声を長く尾を引き張り上げてラディスは再び突進を仕掛けてきたのだ。次第に距離が縮まり、マスターも息を呑んで見守る中勢いよく蹴り出し跳び上がって突撃――が。
「あぐっ!」
やはりここでも見えない壁が阻み、ラディスを容赦なく弾き飛ばして。
「っ……大方、外の連中にも言われたことだろうが」
うつ伏せに転んだラディスは肘を立てると。
「お前は何を考えているんだ」
咳き込みながら。
「人がせっかくかけてやった情けを無駄にしてまで、何がしたい」
それでも。
「死ぬつもりでどうにかしようというのならとんだ失策だ」
……立ち上がる。
「命を絶やしたところでどうにもならな」
「だったら」
ラディスは息を吐き出して。
「どうしてあんなものを見せたんだ」
口の端を伝う赤か透明か正体のつかぬそれを手の甲で拭う。
「……俺だって、分かるもんか」