第十一章-中編-
突き出した小さな両の手のひらから強い風と共に雪の結晶がぐるんぐるんと渦を巻きながら魔獣に襲いかかった。ぐぐ、とほんの少しだが飛びかかるその速度を殺して更にその雪風は魔獣の前足にまとわりつく。蛇が獲物を締め上げるように。絡めて、パキパキと音を立てながらみるみる内に前足を氷漬けに――が。
魔獣が前足を地面を抉るほどに踏み込むと。
「そんなっ」
重みで砕け散り前足は再び自由に。
「あ、アイスバーグ!」
怯むナナに反してポポは数歩前に出ると勢いづけて木槌を振り上げ地面を殴りつけた。ずん、ずんと魔獣に向かって地面が盛り上がりそして最後、魔獣の目前を妨げるようにして巨大な氷岩が地面から突き出て立ちはだかる。
けれど一時の安息にも繋げなかった。魔獣はその口を大きく開くと目の前の氷岩を噛み砕いてしまったのである。
「ぁ……」
魔獣が目の前にまで迫る絶望にポポは瞳孔を細める。
「だあぁああぁあッ!」
叫んで、魔獣の側面から飛び込んでいったのはドンキーだった。
引いた拳を力の限り振るって殴りつける。完全な不意打ちに魔獣は軌道を逸れて地面に叩きつけられた。けれど直ぐに踏み留まって地を蹴り出し、殴った直後の体勢で身動きのとれないドンキーに向かって襲いかかる。ドンキーは目を開いた。
「ドンキー!」
青の閃光が頬を迸る。全力で駆け込んできたラディスが未だ硬直するドンキーの体を抱き締めて横に飛び込んだ。既の所で。けれど魔獣の牙か爪か、ラディスの背中の皮膚を裂いて奪い去るのをドンキーは両の目に見届けて。
「ああぁああぁあッ!」