第十一章-中編-
ラディスは振り返った。……今。
逃げて、って。
巨人が低い唸り声を上げた。
さっきまで聞こえていたものよりも大きく、心の臓にまで鈍く響き震える。あれは何だろう。低く悲しく鳴いて何を訴えているのだろう。何故其処に存在するのか、そしてこれから何が起きようとしているのか……
ラディスは黒い煙や霧に巻かれた巨人の頭部の中で仄かな光を宿す、虹色の球体をじっと見つめた。中が透けて見えるわけでもなく、けれどその謎の球体は、まるで何かの核かはたまた魂を連想させる。
幾つもの色が混ざり合った、だけど何処か歪のような――
……逃げろ。
ゆっくりと目を開く。
「全員、」
ラディスは立ち上がると同時に叫んだ。
「緊急退避!」
巨人が腕を振り上げるのと硬直の糸が解けるのはほぼ同時だった。
「くっ」
マルスの腕を引いて退こうとしたが間に合わない。
振り下ろされた腕が数メートル横の地面を叩きつける――