第十一章-中編-
頭を振り上げて赤に塗れた口を開き、噛み付く。どぷっと噴き上がる鮮血に合わせ何処かで小さな悲鳴が上がった。迫り上がる吐き気に思わず口を片手で塞ぐ。
「うっ」
ルイージが呻いて頭を垂れた。
「なんだよ、あれ」
誰かが無線を通してぽつりと言った。
――誰にも殺させない。
ラディスははっと目を開いた。
思い出せ。マスターはクレイジーを食らった、そして。
どうなった?
「……止めないと」
ずっと一緒にいるって約束したよね。
そうだよね。僕たちの望まないこんな世界なんか。
いくら世界が理想的で幸福であったとしても。
兄さんを否定する“この世界”なんか。
「クレイジーを止めろ!」
こふっと血を吐き出して少年は答えた。
「……もう、遅いよ……」