第十一章-中編-
踏み締めるように。ゆっくりと。
マスターの遺体近くに居たラディスは喋るのを止めた。彼が、少しの声や音にでも反応するのだとしたらじっとするしかない。クレシスも息を殺している。
「……、」
ぶつぶつと繰り返し呟いている。経のようにも聞こえて何となく不気味だ。
もしかしたら途中で気付いて攻撃を飛ばしてくるかもしれない……そんな不安もあったがクレイジーは此方には少しも目をくれずようやく辿り着いた兄の前にがくんと膝を下ろし座り込んだ。血に濡れた左手で額に触れて、頬まで撫で下ろす。
「兄さん……」
試しにラディスはその辺にあった石ころを遠く瓦礫に投げつけた。かつんと小さく音を立てて跳ねたがクレイジーは反応を示さない。
距離を取るなら今だ。クレシスの右腕を肩に回してそろそろと立ち上がり、小石に躓きそうになりながらその場を退く。気付いたマリオとルイージが駆け寄った。
「待ってろ、直ぐに止血する」
喘ぐクレシスに声をかけてマリオはルイージに指示を出す。
「……お前は今の内に指示を出せ」