第十一章-中編-
ぽたり。ぽたり。
「生きてちゃいけないのぉ?」
その少年は一切の視線を寄越さないままへらへらと笑った。
「神様なのにぃ?」
クレイジーが生きている。
声を跳ねて笑う、彼の様子は明らかに正常ではない。視線も何処を向いているとも思えないし、白地だった服が真っ赤に染まり上がるほどの大怪我を負っているはずなのに表情に浮かべるのは不気味な笑み。怪我? いいや、違う。
そんな生易しいものではない。致命傷という表現を過ぎて本来なら死んでいるはずなのだ。心臓も肺も内臓の殆どは穴を空けられ出血も尋常ではない。
なのにどうして、彼は立ち上がれるというのか。例えばその上から何者かが傀儡師のように糸を垂らして操っているというのなら唸りつつも納得がいく。けれどそうじゃない、彼は自分の意思で立ち上がり、それでいて平然としているのだ。
「ひっ」
男が腰を抜かして座り込んだ。クレイジーが歩き出したからだ。
向かう先は。
「おいラディス」
「それが分かったら苦労しない」
ゆっくりと。ふらふらと覚束ない足取りで此方へ向かってくる。
だらんと左腕を垂れて前のめりになりながら歩くその様は生ける屍。