第十一章-中編-
なぁに盛り上がってんだか。
声に釣られてそちらを見たがクレシスは呆れたように息を吐いた。
「ラディス」
髪に触れていた手を名残惜しそうに引いてその人は立ち上がる。
「……分かった」
慈悲深い奴だ。こいつには悪いがその気持ちが分からない。
相手は確かに神様だ。崇めるべき対象だろう。だが俺は宗教だ何だといったところでこれっぽっちも興味ないし、街中で誘われたところで見向きもしない。よって、この結果が罰当たりだとは微塵も思わない。
周りを見てみろ。息をついて安心したり仲間を無惨にも殺されて咽び泣く連中もいる。これまで過ごした日々がどうあれあいつは希望とは程遠く、まさしく絶望そのものだった。中には死んだとはいえ八つ裂きにしてしまいたいなんて物騒なことを考えている奴もいるだろう……それだけ、罪深いんだ。
なのにこいつときたら、何を見せられたのか浮かない顔をするばかり。
――誰かの為になりたいんだ。
嫌な幻聴を聞いた。入隊初日にそいつの口から出てきた言葉だ。
何処まで御人好しなんだか。やれやれと呆れ顔になっていたその時、小さな痛みに肩を竦めてクレシスは怪訝そうに頬に触れた。指の腹には薄く赤が伸びている。
何だろう。
その原因は探るよりも先に明かされた。