第十一章-前編-



戦場に風が吹いた。

頬や髪を撫でる程度の優しい風。

「……終わったのか」

誰かがぽつりと小さく呟いた。


真っ先にラディスの元へ駆け寄ったのはクレシスだった。

距離が縮まると速度を緩め、少し息を弾ませながら立ち止まって。

「……マスター」

眠るように。よく映画やドラマなどで比喩されるその表現にしっくりと当てはまるそんな様だった。目尻に残されたひと雫にクレシスは密かに目を細める。

「ありがとうって」

ラディスは不意に口を開いた。

「……言ってた」


風が吹く。


「本当は分かってたんだと思う。皆と過ごした日常には戻れないって」

愛していたんだ、心から。

本当は誰より傷付けたくなかったはずだ。そうでなければ辻褄が合わない。


だって、あの攻撃は――


「……そうか」
 
 
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