第十一章-前編-
「ラディス」
飛んできた光の刃を全て躱し、さて反撃と構えたその時。
マスターが呼んだ。
ほんの数秒。数秒だけ視線を交わす。
そんな寂しい間だった。
ラディスはその目に一瞬だけ躊躇いを見せた。けれど一度視線を逸らし再び上げた頃には振り切ったのか地面を蹴り出して。その右手には青い電気の衣を纏わせ真っ直ぐマスターの元へ駆けていく。
「……マスター!」
終わりにしよう。
マスターは微笑を浮かべた。ゆっくりと右手を払い、魔法陣をその背に構えて。
やがて光の矢の群れがラディスを襲う。ただ走るだけなら掠める程度致命傷になるはずもなく、ラディスは躱すという選択をとらなかった。ただ、真っ直ぐ。
……マスターの元へ。
目の前にまで来た男が小さく口を動かした。
いい年した大人が目に涙を浮かべて、馬鹿だな。
……俺は。