第十一章-前編-
ふつふつと湧き上がるこの感情は。
……ああ、そうか。
そういうことだったんだな。
「クレイジー」
ぽつりと小さくその名を口にした程度だった。
陽の光を遮る影ひとつ。ラディスとカービィが同時左右に分かれてその場から飛び退くと直後に間を割るようにしてクレイジーが参上した。とはいえ今の彼が気配忍ばせ静かに見参というはずもなく握った拳を急降下、地面に到達する寸前で力強く振るって殴りつけ、結果半径二メートル範囲を抉り砂埃を舞い上がらせて。
「……なぁに。兄さん」
クレイジーはゆっくりと頭をもたげる。かくんと首が傾いた。
「そいつらを殺すのは止めだ」
その発言に誰もが目を開き驚愕したことだろう。
「少しやることが出来た」
クレイジーは狂気に染まりきっていた瞳に微かな疑問を宿す。
「お前は他の奴らが邪魔に入らないように立ち回れ」
マスターは指を鳴らす。
すると。背後の魔法陣が消え失せ、それに伴い剣までもが消滅したのだ。
「……これがお望みだろう?」
ラディスははっと顔を上げる。
「来い。相手をしてやる」