第十一章-前編-
「迷いは振り切れたか?」
慌てて、ではなく。ラディスは声の聞こえた方をゆっくりと振り返る。
「やれやれ。待ちくたびれて欠伸も出ないな」
変わらぬ瓦礫の上で足を組んで座る、狂気の片割れ。
「……マスター」
その右目の瞳は深海を連想させるような深い青に染まっている。
恐らく。クレイジーの能力が唐突に底上げされたのも彼が原因だ。いや。原因、というよりは。破壊神であるクレイジーの力を暴走してしまわぬようにこれまで彼は彼自身の力をもって制御していた。
あれはその制御を一時的に、解放しただけ。
「あいつがどんな技を使ってくるか知っているか?」
クレシスは隣に並んで睨みつけている。
「……ああ」
創造神の二つ名に相応しい。この世に二つとないものを一瞬で作り上げ、突破を、接近を許さない絶対的な防御力。弟とは対象的に、でも。
多分、彼より強い――!
「沸き立つ客は誰一人居ないというのに」
マスターはすっと右手を上げて指を鳴らす。
「茶番はここまでだ」
現れる、剣を模した光の刃が彼の後ろで縦に円描いて、ぐるぐると。
「……始めようじゃないか」
ぴたりと止んで切っ先が向く。
「最後の戦いを」