第十一章-前編-
なんだ。この、違和感は――
「ッ、」
一瞬の油断が原因か。それすら与えられなかったのか。
引いた拳がもう目の前にまで迫っているのをどうすることも出来なかった。頬に受けたが最後砂煙が周囲を円描き、恐ろしい勢いで吹き飛ばされる。続けてクレイジーは地面を蹴り出すと瞬時に追いついて真上へ。
「くっ」
千切れそうな意識を繋ぎ止めクレシスは右脚に電気を纏わせて蹴り上げる。が、飛び上がり躱された。そのまま体を捻り拳を構えて急降下。クレシスは右脚を浮かせた状態で両腕を地面へと伸ばし付いて後転、押し出すように飛び退く。
間一髪。クレイジーの拳が唸り、仕留めたのは地面だった。
……動きがさっきまでとまるで違う。クレシスはとんと左足を地面に下ろして。
「え?」
奴が居ない。
直後。声もなかった。
目前が陰り赤みのかかった白髪が揺れて。
ゆっくりと顔を上げる。