第十一章-前編-
「ぐあっ!」
クレシスは振り返った。
視線の先では今しがたクレイジーが拳を振るい、低く跳び上がって打ち上げた男の背に回り込んで蹴り飛ばすところだった。着地と同時赤い閃光を引いて銃弾を身を反らして躱し、かと思うと左手を払い銃を構えていたその本人の体に数発返して。
おかしい。
何故、姿が追えない――!?
「うわあああっ!」
遠く離れた銃撃部隊の目の前まで一瞬で移動して蹴り出し、まだ彼らが気付いていない間に一人の男の顔面を正面から鷲掴み、勢いに乗せて後方へ倒し地面と挟んで押し潰す。悲鳴の上がったのはその一連の動作が終わった直後で、叫んだその男も銃を乱射している間に懐へ潜り込まれた。
遅れて鮮血が次々と上がる。
なんで。どうして。話が違うじゃないか。
さっきまではこんなこと――!
「クレシス!」
一掃を終えたクレイジーがゆらりとクレシスを見た。
反応が遅れたのだった。砂煙が舞って姿を掻き消したその直後、目の前に。
「ぁ」
無感情の瞳。それとは対照的に口角が吊り上がり、
……にやりと。