第十一章-前編-
「……え」
左目へと差し向けられた兄の右手。
「クレイジー」
――すぐに終わるからな。
その刹那、クレイジーは首を反らし仰いで頭を垂れた。それからゆっくり見惚れる戦士たちに向き直り、だらんと左腕を垂れて重い頭をおもむろにもたげると。
程なくして瞳に、赤黒い光をぼんやりと宿した。
「なに、」
誰かが声を洩らしたのも束の間。
クレイジーの姿が消えた。
「え」
そこに居た証とされる砂煙を微かに残して。
次の瞬間には。
――兵士の男を蹴りで薙ぎ倒した。
「なっ」
この間姿を捉えることが全く出来なかった。
一体、何が起こって――