第十章-後編-
何てことはないただの人間の少女だった。
治癒魔法を使えるはずもない。その場から頑なに動こうとしない俺を諦めるでもなくわざわざ家から救急箱なんか持ってきて、続け様、よく分かっていない消毒液をしゃかしゃか振っては振りかける。雑な応急処置に声を荒げた。
「これでよしっ」
人生最大の屈辱だった。
包帯の巻き方が荒いがひと段落つくと木の幹に寄りかかって溜め息を吐いた。
「余計なことしやがって」
不快感が募る。
けれど。
「困ってる人を放ってはおけないよ」
少女は照れ臭そうに笑う。
「お母さんに怒られちゃうからね」
ふっと掻き消された。
彼女には両親が居ないらしい。
女手ひとつで育てられたが病弱だった母親の女性は少女が十四の誕生日を迎えたと同時に他界。その頃には少女も一人で何でも熟せるようになっていて、けれど学業を学ぶためのお金もないから元々森の中にあった家で自然の恵みに助けられながらこれまでを過ごしてきたんだと。
独りで。狭い世界の中を宛てもなく繰り返す。
重ねてはいけないと思いつつも。
その時の自分がどうしようもなく渇望していたことに。
気付きたくはなかったのに。