第十章-後編-
何故か頭の中が真っ白になっていた。
相手が沈黙しているのをいいことにダークリンクは背負った鞘に剣を仕舞いつつ、にやりと笑うと目前まで来て跪き、壁に片手をそっと置いて。
「非情になれ」
囁かれた言葉にドクン、と心臓が鼓動した。
「てめえは素質はあるのに優しすぎる。故に本来の力が出しきれていない」
それはまるで、洗脳するように。
「……苛々するだろ? あんな餓鬼共に引っ掻き回されて」
静かに語りかける声が頭の奥の奥まで染み渡っていくような。
「だったら、殺せ」
何か悪いものに毒されていくような――
「奴らは自分の理想の為に関係のない沢山の人間を殺めた」
心臓が大きく打って跳ねる。
「ほら。てめえが嫌っていた行為そのものだ」
悪魔は笑う。
「加えて互いに過保護、反省の欠片もありゃしない。てめえがどう言おうと奴らは心にも思わない、ただの単なる殺人鬼だ。……考えろ」
囁く。
「そんな奴を生かして何のメリットがある?」
――蝕む。
「いずれは自分の家族にだって手をかけるかもしれない。だってそうだ、奴らは興味の対象でなければ使い切りの玩具でしか見ていないんだから」
ラディスは表情に影を差した。
「憎いだろぉ? 許せねえだろぉ?」
くくっ、と笑ってダークリンクは最後に告げた。
「くだらない感情は捨てて割り切るんだよ。この世界を守りたいのならな」