第十章-後編-



「ああぁあああッ!」

かっと瞳が見開かれた。

刹那、クレイジーの背後に縁がぼんやりと赤い白の光の魔法陣が幾つも生成されるとその中央から先程よりひと回り大きい氷柱を模した赤い光の刃が突き出て狙いを定め射出された。遅れてラディスはそれを横に飛び込んで躱す。

獲物を逃して地面に突撃、凄まじい音と共に抉れ、思わず目を開く。

「っ、」

しかし攻撃はそれだけに留まらず。ラディスは体を起こしつつ前方に飛び込み二撃目を躱した。三撃目、動くよりも先目の前に突き刺さる。

「言ったよねぇ。何もしなければ殺さないって、言ったよねぇ?」

だらんと腕を垂らしてかくんと首を傾ける。その姿はまるで糸に吊るされた道化の人形を連想させた。先の読めない、凍りついた笑み。笑み。……笑み。

「……き」

ラディスはゆっくりと立ち上がる。

「君は……」
「僕? 僕は兄さんの弟だよ」

くくっと小さく肩を跳ねさせ笑って。

「……昔からそう。兄さん以外有り得ない。兄さんだけが僕の全てで」

左手を薙ぐ。またすぐ横を刃が駆ける。

「兄さんの理想は僕の理想だ。お前の言葉なんて関係ない」

ゆっくりと降り立ち、ふらりと進み出て。

「いらない。兄さん以外の言葉も世界も全部全部全部――」

左手を打ち払う。

「目障りなんだよッ!」
 
 
6/55ページ
スキ