第十章-後編-
まるで。
忘れてしまったみたいだ。
……今までの出来事の何もかも。
「お前の慈しみ助けようとする意思はただの単なる同情だ」
「……、違う」
「生き物全てを平等にだとか救いたいだとか。そんなものは自己満足でしかない」
「違うッ!」
マスターは冷静に返した。
「……違わない」
たじろぐ。
「お前の望む世界と俺たちの望む世界は違う」
言葉が詰まる。
「幸せなんてのはその人の在り方次第だ」
静かな風が吹いた。
「……そうかもしれない」
ラディスは俯かせていた顔を勢いよく上げる。
「でも君たちの望む世界は大多数の人間が望まない!」
「……その言葉、そっくりそのまま返そう」
「それでも!」
ぐっと拳を握り締めて、
「人は幸せになれる!」
マスターは小さく目を開いた。
「過程があるから噛み締めるんだ。辛いから、分かるんだ」
どうか。
「だから君たちの望まない過去(いままで)を壊すのも望んだ未来(これから)を造るのも本当は誰も幸せになんかなれないんだ」
……彼らに。
「本当はもう気付いているはずだろ」
届いて――
「何が幸せだったかってことくらい……!」