第十章-後編-
「やっぱり、調子出ないね。避けられちゃった」
そう呟くクレイジーの瞳は冷たく。
「……気付いていたのか」
ラディスは頬を掠めた際に生じた傷に滲む赤を手の甲で拭った。
「気のせいかと思ったんだけどな」
機嫌麗しくない声色。
「言ったよね。何もしなければ殺さないって」
……殺気。
「お前もつくづく飽きないな」
ラディスは立ち上がる。
「言いたいことは凡そ把握している」
冷めきった態度。
「確かに。お前はこの世界を愛しているらしい。悪いものも含めて、全部」
伏し目がちの瞳からは哀れみの色が窺える。
「感動的だな。もしもお前のような感受性が高く慈愛に溢れた生き物が神様だったならこの世界は何の縺れもなく且つ平和に悠久の時を刻んでいたことだろう」
マスターはかくんと首を傾ける。
「……だがそれがどうした」