第十章-後編-



ラディスは微かに息を弾ませて、足を止めた。

曇り空をバックに此方には背を向けて飛んでいく二つの影。


今更見間違うはずもなかった。


「マスター!」

どうやら本当に司令塔へ向かっているようだ。

「……クレイジー!」

叫んでみたが、聞こえてないのか? 彼らは一切此方に視線を寄越さない。

だからといって手が届く距離ではなかった。自身跳躍力に特別長けているわけでもないし斯くなる上は。ラディスは右手を突き出し、腕に青い閃光を走らせる。


――刹那、鋭い音を立てながら。青の雷撃が放たれた。


肩を並べて飛んでいた二人の間を割るようにして空を駆ける。ただ気付かせる為にわざと、傷付かない方法を選んだのだ。

その甲斐あってか二人の動きは空中で停止した。ほっと息をついた、次の瞬間。

「っ、く……」

双方の隻眼が赤と青の光を引いたほんの振り向き際。同じく赤と青のちょうど半分ずつ光を放つ魔法陣が彼らの後ろに生成され、かと思うと何もない場所即ち、空間から氷柱を模した光の刃が幾つもラディスに向けて放たれたのである。

その速さときたら。ひとつが頬を掠めてようやく動けた。

右、左とステップを踏んで後退、バク転、最後強く蹴り出して大きく後方へ跳んで空中で後転、着地して跪く。
 
 
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