第十章-前編-



……血。

染み付いた記憶が重なる。

誰かが守るために傷付いて犠牲を払う。


その度に足が止まる。

息が詰まる。


あと一歩が踏み出せなくなる。


……怖くなる。


「マルス」

遠く聞こえてぼんやりとした視界の中を探った。

次の瞬間カランと音を立てて。目の前に放られたのは……


「拾え」


そいつは言った。


「お前の剣だ」


銀の光沢。鋭い切っ先。何処かまだ見覚えのある。

「……マルス」
 
 
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