第十章-前編-
――何が起こったのかはきっと。
その時は自分以外の誰も分からなかったのだと思う。
「カービィ!」
鮮血を引きながら倒れかかるその最中、遅れて事態に気付いたロイが声を上げた。
駆け出そうとしたが刹那、マルスに腕を掴まれ留まる。何の意図があるのか素直に足を止めているとクレシスは足を踏み出して。床に倒れ込んだカービィを、立ったままの姿勢で跨ぎ、剣の切っ先を向けて冷たく見下ろす。
「な、……で……」
足下のカービィは浅く呼吸を繋いでいる。呻くように小さく声が聞こえた。
「未練なんて無いんだろう」
冷たくあしらう。
「命なんてどうでもいいんだろう」
多分、その場に居合わせた誰よりも冷静だった。
「自分には何も無いと。玩具だと。お前が、お前自身がそう言って認めた」
堪らずロイが踏み出そうとするのをマルスはまた腕を引いて止める。
「お前だけじゃない、他数名。価値が無いのならこれ以上生かす必要もない」
「……は……っ」
虚ろな伏し目は空を見つめている。
「異論は無いようだな」
クレシスは剣を逆手に持ち直して振りかざした。
「どうぞ勝手に。宛てのない絶望を繰り返すといい」
――誰かが遠く叫んでいる。
「どうせ、生きる意味も何も無いんだろうからな」