第十章-前編-



その時だった。

「っ、」

地面が大きく揺れて、ざわめく。直後に建物の崩れる音。

幸いなことに此処からそう近くはないようだが、酷く響いた。残念なことに、どうやら彼らも飽きることを知らないらしい。

「兵士さん」

無意識に顔を顰めていたところ、初めの男性はそう口を開いた。

「あんたの意志は十分に伝わったよ」


――子供の泣き声も、悲鳴もいつの間にか止んでいた。


「無くていい命なんかないんだ」

その言葉にラディスは小さく目を開く。

「……だからあんたは、生きて帰りなさい」

滲む。


「此処に居る皆がそう信じてるよ」


言葉にならない。

「……行ってきなさい」

でも。

「はい!」 


――行かなきゃ。


ラディスは涙をのんでテントを飛び出した。

……これで本当に、後戻りは出来なくなったな。ラディスは顔を上げてもくもくと昇る黒煙を見つめる。あの方向、まさか司令塔へ?


急がなくては。

これ以上、彼ら自身が傷付かない為にも――!
 
 
35/49ページ
スキ