第十章-前編-



マスター。

君は、本当に。弟の為だけに、本気で。


「せーの!」

かけ声と同時に瓦礫を持ち上げて浮かせると、救急隊員の一人が被害者の男性の上体を持って引きずり出した。確認して瓦礫をゆっくりと下ろし、安否の確認。

「すみません!」

だが事態はそれだけにおさまらない。人手はどうしても足りないのだ。

「こっちも手伝ってもらえますか!」
「よし、お前はこの人をテントまで運んでくれ」

救急隊らしき大柄の男は後輩の男に先程の男性を任せ、その場を離れる。

「ぐうぅ、ッあ、あぁ……!」
「すみません痛かったですか!」

不慣れな様子からしてまだ新人のようだ。……戦場だって、初めてだろうに。

「足が折れているかもしれません、二人で慎重に運びましょう」
「あっありがとうございます!」

声をかけると、男は安堵した顔で受け入れた。助けられる側だけじゃない、助ける側だって不安なんだ。こんな、戦場の真っ只中で。


……そうか。

此処はもういつも見る街じゃない。此処は、戦場なんだ――


「すっすみません……手伝っていただいて」

医療班の控えるテントまでそう遠くはなかった。

所々で泣き声や呻き声、それに対する励ましの声が聞こえる。忙しく駆け回る医療隊員、知識のない自分が此処で手伝えることは何もない。

「一般の方ですよね、怪我は」
「いえ、俺は――」
「防衛部隊の連中は一体何をしているんだ!」 

その男の声にざわめきが少し、止んだ。
 
 
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