第十章-前編-
煙の匂いがつんと臭う。街の人々は皆、何かしらの怪我を負って、何処であれば安全なのか指導を試みる救急隊や警官隊を無視して逃げ惑う。今でも所々で泣き声や悲鳴が上がり、それが男か女か、子供か大人かさえも判別できない。
入隊初日――初めての都会に戸惑った。高層ビルを忙しなく見上げて、田舎者だと嘗められるぞとなんてからかわれた此処も今ではもう、慣れ親しんだ景色。
なのに。
「……そんな」
ラディスの声は恐怖と絶望に震えた。
「此処が……あの、レイアーゼ……?」
救急も何も追いついていない。
怪我を負って動けない人間があちらにもこちらにも。……対処しきれないんだ。当然だ、此処は天空に在るとされる都市。隣接した国はもちろん、無い。
まるで地獄絵図だった。
ラディスはぼうっと歩みを進める。……ああ、あの花屋は。季節問わず色々な花が売られているからピーチやゼルダが気に入ってたっけ。今じゃ火が、赤々と、あれじゃ花が燃えて……ああ。あの肉屋は確か、安いからってヨッシーがよく誰かしら連れて買い出しに行ってたっけ。でも今は入り口が、崩れて……
「おいしっかりしろ!」
……人が、倒れて。
「お前はそっちを持ち上げるんだ!」
「分かりました!」
混乱の渦に呑み込まれる。
「せーのっ」
「俺も手伝います!」
自分がこんな調子でどうするんだ! はっと我に返って駆けつける。
「ううっ……」
「もう大丈夫ですよ! 今、持ち上げますからね!」