第十章-前編-



パンッ、と乾いた音が響いた。

「……フォックス」
「じゃあもう一度証明しようか」

ぱさりと落ちたのは括っていたファルコの髪だった。銃口が向けられる。確かに、彼は気付いているはず。けれどその場から一歩も動こうとしない。

「やめ、」

引き金を引く。フォックスの瞳は虚ろに陰って。

間もなく発砲音が響いてクレシスは目を大きく開いた。くるくると回転しながら、宙を舞った拳銃が程なくして床に落ちる。はっと振り返るとゼルダが座り込んだ姿勢のまま両手を突き出し、肩で息をしていた。やがて金色の光が失われると両手を床に付き、ぽろぽろと涙をこぼして。

「もう、もうやめて……やめてください……こんなの……」

しかし事態はそれで収まらない。

ロイが駆け出したのだ。目で追ったその先で金属音。カービィがマルス目掛け振り下ろした剣を抜いた剣でロイが応戦している。ぎりぎり、ぎりぎりと。

「なに、庇ってんの」
「こんなの間違ってるだろ」
「不公平でしょ。どうせ僕たち死なないんだし」

カービィの目は虚ろだ。

「もう、戦わなくたっていいんだ。世界はあいつら神様の理想が赴くがまま正しく改変される。それが理想じゃなくたって逆らえない。僕たち、玩具だったんだ」
「そんなこと、ないだろ!」
「じゃあ証明してよ! 僕たちの存在意義を」

ロイはくっと眉を顰めた。

「こんなのってないじゃんか! 僕たち、何の為に生まれてきたんだよ!」


――そんな顔しないで。


ラディス。お前は、こんな仲間の変わり果てた姿を、一人で。

辛かったよな。どんな言葉も届かない、自分だってその事実を受け入れるのに。


壊れて、泣き叫びたいくらいだっただろうに。


「っ、あ」

遂に剣が弾かれた。ロイはマルスを庇うべく背を向ける。

「マルス!」 

しゃくり上げながらカービィが、間もなく剣を振り下ろした。
 
 
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