第十章-前編-
信じられるはずがない。
『ゲームのキャラクター』だったとして。感情は。痛みは、苦しみは。
――俺たちは、何だったんだ?
「じゃあ、」
ピーチはマリオの右肩にそっと手で触れた。
「……痛かったわね」
あれほどの出血を伴う負傷。恐らく、彼は右腕を。
「分かったように、言うなよ」
マリオはぐっと拳を握り締めた。
「……なあ、クレシス」
拳を緩めて影を差す。
「覚えてるか。お前がダークリンクに刺された時のこと」
確かにあれは忘れもしない。皮膚を突き破り肉を裂く、鋭くまたとない痛みが二度襲い、血溜まりに伏せて意識が途切れた。生と死の狭間を彷徨う恐怖感。
目覚めて、それからは何故かすっかり忘れて。
……あれ?
「心臓をひと突きにされていた。本当なら死んでたんだ」
クレシスは自身の胸に恐る恐る手を置いた。……心臓は動いている。
「分かっただろ。俺たち全員あいつら神様のお気に入りで、そうである限りは何度死にかけようが修復され、生かされる」
自嘲気味に、マリオは小さく笑った。
「腕を捥がれようが心臓をひと突きにされようが。どんなに死に直結する負傷でもその時ほんの少しでも息があればあいつら神様に生かされるんだよ」
クレシスは奥歯を噛み締めた。
「そんなことっ!」