第十章-前編-



浮かせた左手を、刀身に乗せて。

マルスは目を奪われていた。じわりと左目に滲んだ雫が、頬を伝ってこぼれ落ちるその最中。切っ先はカービィが手を下ろすがまま胸部へと向けられ、刃が手のひらに食い込むのも構わず、強く握り締め、そして。

引く。内側へ。


――カービィのいる、方向へ。


「……え」

切っ先が皮膚を突き破って、貫いて背中を突き出る。それほど勢いのあるものでもなかったので、傷口からは少量の血がぶしゅ、と噴き出した。

「っ、あ……は……けっこー痛いかも……」

カービィは苦笑いを浮かべて引き抜いた。血が、胸部からどろどろと溢れ出す。

理解が追いつかない。


今のは、なんで。


「カービィ!」 

ロイが叫んだ。

現実に引き戻される。そうだ、治療を。

「ピーチ!」

……動かない。

「ゼルダ!」

くそっ、肝心な時に限って!

「あ……ぁ……」

マルスもその内の一人。目の前で見せつけられたのだから当たり前だ。


――どうして。どうすれば。


「騒が、ないでよ」

カランと音を立てて、剣が床に落ちた。

「だって僕たち、神様のお気に入りだからさ……」
 
 
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