第十章-前編-



鞘から剣を抜き去る音。

気付くのが遅れた。ロイが呼んだ頃にはマルスは荒々しく進み出て座り込んでいたカービィの目の前に跪き、右手を柄に乗せて抜きながら左手を伸ばして。胸ぐらを掴み、そして剣を引いてその切っ先を喉元へあてがったのだ。

「落ち着けってマルス!」
「五月蝿いよロイ。少し考えたら分かることだろ」

言った直後、大きな揺れが屋敷を襲った。

「……取り上げないでと言ってた割に随分とあっさり手放すじゃないか」

二度目の揺れが屋敷を襲う。が、今度は小さい。

「……まさか。今のこの状況が分からないとか言わないよね」

カービィはようやく、重く視線を上げた。

「あんたには分からないよ」
「よくもそんな子供みたいな口が利けたものだね」

すれ違った、彼がどんな顔をしていたのか。

「……あんな顔をさせておいて」

ぎり、と奥歯を噛み締める。

カービィの脳裏にもあの時のラディスの顔が掠めて、そして消えた。

「……じゃあさ」

マルスははっと目を開いた。

「何処まで、信じる?」


――あんな顔をさせたかったわけじゃないのに。


「……カービィ?」
 
 
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