第十章-前編-
ありのままの自分たちと接していたかった、それだけなんだ。
例えそこが、子供心を映し出しただけのオモチャ箱でも。彼らにとっては何万年、何億年といった途方もない時間をかけてようやく出会えた景色で。
けれど世界は戦争に手を染め、戦士たちの心はそれぞれの悲しい過去を抱え荒んでいた。自身の目にした光景が理想とは大きくかけ離れていたことにマスターは深く悲しみ絶望を抱いていたことだろう。
――それでも。
いつか目覚める弟を、光ある世界の下、彼らと迎える為に。
「止めないのかい」
ラディスは静かな口調で訊いた。
「……マスターとクレイジーのこと、昔から知ってる。ラディスも知ったはず」
本人が惨状と称した過去。未来を信じて研究者に飼われた末路。
全てを、失った。
その後双方の強い思念が神への転生を果たし、幾年の時を越えて。
二人が望んだ理想の世界を。今度こそ、完成させる為に。
誰の悲しみとも比べものにならない。
彼らの理想は正しい。今の世界こそ戦い無くしては成り立たない。刃が無くては殺される、そんな阿鼻叫喚とした世界を変えようとしている。
俺たちのことだって生かしてくれた。
実際、どの場面でも殺せるチャンスはいくらでもあった。こちら側の全ての言動が理想ではなかっただろうから。けれど彼らはそれをしないどころか、今だってこうして守ろうとしている。彼らは本当は優しいんだ。
彼らのことを、想うのなら。