第十章-前編-
「何処、行くの」
その声にラディスは振り返った。
「此処に居たら安心だよ」
静かに吹き抜けた冷たい風に黒髪が揺れる。
「……ゲムヲ」
幼い瞳が促す、その正体はゲムヲだった。
「その青いのは悪いもの弾くから。僕たちを確実に守ってくれる」
此方に一切の被害が及ばぬよう配慮された防壁。
敵意の対象は通さず除外。
「じゃあ、やっぱりこれは」
――安心しなよ。あんたたちは殺さない。
「知ってたんだな」
自分でも思う程度にはいつになく冷静だった。
「……全部」
例をあげて問いただすまでもなく。彼はこくっと頷いてみせる。
「暗示にかけられていた。だからマスターを見ても“初めまして”だった」
……その暗示が。ゲーム機の損傷により、解かれた。
「ラディス」
「分かっているさ」
真実に触れさせればこうなると分かっていた。
だから様々な方向から鍵を掛けて細心の注意を払った。
分かってる。
……愛されているんだ。