第十章-前編-



靴音、響かせて。

息を弾ませながら男は階段を駆け上がる。下りる時は何も感じなかったのに、長い。長い、長い、螺旋状の階段を、ぐるぐると。

……ぐるぐると。置いてきた仲間のことを、思った。


叫んで、無理矢理にでも手を引いて連れ出すべきだったのかもしれない。

分かるだろ。普通に考えたら。


でも、だって。

あんな顔、初めて見た。


俺には出来ない。……連れ出すなんて、出来ないよ。


「……フォックス」

長い沈黙の末にファルコが口を開いた。

「よかったんだよな。これで」

がくんと両膝を地に付いて座り込む。フォックスは前屈みになり両手を付いた。

「っ良くないに……決まってるじゃないか……!」

でも。

……でも。

「ラディス……」

ぽつりと零れた男の名前。虚ろな瞳をカービィは扉へと向ける。

後にはフォックスの嗚咽だけが虚しく響いていた。
 
 
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