第十章-前編-
「それっ!」
クレイジーは体を捻り、左腕を払って赤の斬撃を打ち出す。
「きゃあぁああ!」
人々の悲鳴が街のあちこちで上がり、辺りは騒然とした空気に包まれた。
「あははっ見てよ兄さん! まだあんなに生きてる!」
天空大都市レイアーゼの上空、そこにマスターとクレイジーはいた。
ゲーム感覚で斬撃を打ち出しては逃げ惑う人々を爆風で散らす。肩慣らしと称したそれは言ってみればもう単なる惨殺で、無邪気に笑うクレイジーと黙視するマスター、その両方がそれぞれ形の異なる恐怖を人々の心に募らせていた。
「ふふっあははっ」
「クレイジー。それに満足したらあの塔へ行こう」
「あの塔?」
マスターが示した視線の先には――中央司令塔。
「そっかいきなりこんな風に壊したら大パニックだもんね」
クレイジーは悲鳴の止まない街を見下ろす。
「宣戦布告ってやつ?」
「ま、場合によってはな」
「かっこいい!」
――立ち昇る黒煙に紛れて一人の青年が煙突の上に降り立った。
「だろう?」
黒煙が風に吹かれる。爆発音。青年は目を細め、程なくして姿を消した。……