第十章-前編-
「抵抗もできなかった、二度とない痛みを味わった!」
マリオは引き攣った笑みを浮かべる。
「お前はいいよなあ、分からないもんなあ!? どうせ心の中じゃ自分じゃなくてよかったってそう思ってんだろ! お前だけじゃない……お前も、お前も!」
感情を高ぶらせ、ふらりと立ち上がって初めにフォックス、続けてファルコを睨みつけた。直後くっと眉を顰めてその場に両膝を付き、項垂れる。
「なのにまた、戦えってのか。今度は本当に、殺されるかもしれないんだぞ」
ラディスは静かに首を横に振る。
「……そんな」
そんなことないって、否定しなきゃ。
「だって、マスターは」
フラッシュバックで脳裏に浮かぶのは血濡れた光景の数々。
「まだそんなこと言ってるのかよ!」
その、どれもが。
「あんな化け物を庇うのかよ!」
――淡々としていた。
「……どうしても止めたいってなら、一人で行ってくれ」
今にも消え入りそうな声でマリオは最後、呟いた。
「頼むから……これ以上、巻き込まないでくれ……」