第十章-前編-
「……なんで」
物音ひとつ。呼吸の音さえも。
……聞こえない。
「どうしたんだよ、皆っ!」
心臓が止まるのとはまた別の“死”をラディスは目の当たりにしていた。
「このままじゃ、」
――綺麗にしてあげるんだ。
「皆の知っていた景色が消えて無くなるかもしれないのに……!」
“この世界”は確かに欲望に薄汚れた醜い世界だったかもしれない。
けど、知っている。この世界には沢山の抱えきれない思い出が溢れている。
俺は守りたい。
「いいんじゃない」
だがしかし返ってきたのはラディスの求めたそれとは大きく異なる、
「その方が案外、世界は平和になるかもよ」
……諦めの声だった。
「……え?」
ラディスは小さく声を洩らす。
「なに、言って……冗談だよな?」
どうして誰も否定しようとしないのだろう。
「……もうさ。やめようよ」
カービィは苦笑混じりに言った。