第十章-前編-



◆第十章『孤独の淵で-前編-』



ホールが渦を巻きながら透明化して消失後、ようやく、硬直は解かれる。

ゆっくりと立ち上がったが、そこにあの双子の影も形もなく。ラディスは暫し呆然と立ち尽くした後、震える手のひらを見つめてぐっと握り締めた。

「……マスター」


この手はまた、届かなかった。


「ここが外の世界っ!?」 

虚空に突如として現れたホールから二人の少年が現れ、地上に降り立つ。

内の赤髪の少年クレイジーは早速、草地を元気に駆けながら歓喜の声を上げた。

「時間は!?」
「無制限」
「何してもいいの!?」
「当然だ」

神様なんだから、と青髪の少年マスターが告げるよりも先。

クレイジーが体を大きく捻り左腕を薙ぐと、赤の斬撃が乱雑に低く飛び、草を払いながらその先にあった木の枝を容赦なく切り落とした。白い羽根の鳥たちが一斉に空へ飛び立ち、それを見上げてクレイジーは「あーあ」と声を洩らす。

「逸れちゃった……」
「クレイジー」

マスターはゆっくりと歩いて接近する。

「元の体とはいえ馴染むには時間がかかる。あまり無理をするんじゃない」
「分かってるよ。でもさ、それじゃせっかく動けるようになったのに」

不貞腐れるクレイジーにマスターは遠く見えるビル街を見遣る。

「……ちょうどいい。あそこにしよう」

クレイジーは釣られてそちらを見た。

「あの街は広いし肩慣らしには十分だろう」
「いいの? メチャクチャになるよ?」


――死んだ人間は、どう足掻いたって戻ってこないんだよ!


「構わないさ」

苦く聡明に色濃く残る。

「必要ならまた作ればいいだけの話だ」
 
 
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