第九章
銃声が鳴り響く。
「……、」
弾はクレイジーの頬を掠めた。銃を構えていたのはフォックスである。
一線に滲み、伝う赤を左手で拭っておもむろに視線を返す。ビクッと肩を跳ねたが構えは解かなかった。クレイジーは目を細める。
――彼に傷を付けてしまった。あの程度、本人は何ともないだろうが肝心なのは自分の位置がマスターの攻撃圏内にあるということだ。異常なまでな愛情を示すその対象が傷付けられたのだ、次に、……狙われるのは自分かもしれない。
「退いてやれ」
次に聞こえた声に安堵した。
おとなしく、足を引いてクレイジーは姿を掻き消す。
「は、早く止血を」
フォックスは何とか口を開いた。
……動かない。
「早く!」
今度は語気を強めて。はっとしてようやく硬直の解けたラディスが駆け出した。
痛みに悶え苦しむマリオを抱き起こし傷口を見る。彼は必死で押さえているがどくどくと溢れる鮮血は止まることを知らず最悪の結末が頭を過った。
止血をしなければ。でも、どうやって――
「い、嫌だ……嫌だぁ兄さんが……ぁ、あっ……」
ぼろぼろと涙を零しながら頭を抱えるルイージ。
青ざめた顔で、ファルコは構えるのを忘れている。
銃を構えてはいるものの、怯えた表情でガタガタと震えているフォックス。
カービィは終始無言、立ち尽くしたまま。
なんだこれ。どうすればいいんだよ。
……どうすれば。