第九章
ぶちゅ、と気持ちの悪い音が響いた。
「ぁ」
それはマリオの右腕の付け根が外側からの圧力によって骨諸共潰された音だった。マスターは続けて握った拳を捻り、まるで引っこ抜くかのように振る。
「ああぁあああぁああッッ!」
聞くに堪えない、痛ましい悲鳴が大きく響き渡った。
――引き千切られたのだ。ぶちぶちと皮を裂いて、無理矢理に。その光景のなんと恐ろしいことか、次の瞬間には鮮血が弾けたように噴き出し、目に映る景色を赤く染めた。悲鳴は長く尾を引き、その最中、マスターがぱっと手を広げるとマリオの体にぼんやりと宿っていた光が失せ、ぐらりと傾き、墜落。
「あ……ああ……ぁ……」
地面に倒れ込んで尚痛みに悶え苦しむ兄の姿に、ルイージはただ呆然と声を洩らし青ざめるばかりで動けない。
「情けないなあ」
クレイジーは言った。
「僕だったらすぐ駆けつけるのに」
マスターの隣からふっと姿を掻き消して次の瞬間、マリオの傍に足を付く。
「出来の悪い弟を持つと苦労するね」
未だ動けないままでいるルイージを振り返って呆れたように小さく息を吐き出し、それから足下で激痛に喘ぐマリオを見下ろす。
「……ねえ」
クレイジーは断面を押さえる左手を容赦無く踏みつけた。
「痛い?」
――声にならない光景だった。
「ああぁあッ!」
「……痛くないよね」
クレイジーは冷たい瞳で見下ろす。
「僕たちの方がずっと痛かったんだから」